膝の再生医療に保険は使えるか|自由診療と保険診療の境目
膝の再生医療で公的医療保険が使えるのは、いまのところ限られた治療だけです。多くは自由診療で、全額自己負担になります。ただし境目は動いています。2026年1月には自家培養軟骨が変形性膝関節症へ保険適用になり、同年5月には半月板損傷を対象とする再生医療等製品が国内で初めて承認されました。この記事では、いま保険が使えるのはどれか、なぜ他は使えないのか、そして半月板の治療がいつ保険で受けられるようになりそうかを、公表されている情報にもとづいて整理します。
目次
保険が使えるのは、いまのところ自家培養軟骨だけ

先に結論を置きます。膝の再生医療として紹介されている治療のうち、公的医療保険が使えるのは自家培養軟骨(ジャック)です。PRP療法、PFC-FD療法、APS療法、幹細胞治療は、いずれも自由診療です。自己血由来の治療であるPDF-FD療法も自由診療です。
| 治療 | 公的医療保険 | 高額療養費制度 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 自家培養軟骨(ジャック) | 適用 | 対象 | 2013年4月に外傷性軟骨欠損症などで、2026年1月に変形性膝関節症でも適用。手術と入院を伴う |
| PRP療法 | 適用外 | 対象外 | 順天堂医院が「保険診療として認められていません」と明記 |
| PFC-FD療法・APS療法 | 適用外 | 対象外 | PRPを加工した製剤 |
| PDF-FD療法 | 適用外 | 対象外 | 自己血由来の治療で自由診療(細胞を用いないため再生医療等安全性確保法の対象外) |
| 幹細胞治療(脂肪・滑膜など) | 適用外 | 対象外 | 自由診療 |
| 半月板損傷の再生医療等製品(セイビスカス注) | 2026年10月8日時点で保険適用の開始を確認できず | — | 2026年5月8日に製造販売承認。8月5日の中医協で、保険収載に向けて医療機器の区分で手続きを進めることが決まった |
同じ「再生医療」でも、扱いがここまで分かれます。受ける治療の名前が決まっていないうちは、保険が使えるかどうかも決まりません。
「保険適用」と「承認」は別のもの
混乱しやすいところなので、先に整理します。医療の世界で使われる言葉には段階があります。
- 承認 … 国が有効性と安全性を審査し、医薬品や再生医療等製品として売ってよいと認めること
- 薬価収載・保険収載 … その製品や技術に公定価格をつけ、公的医療保険で使えるようにすること
- 自由診療 … 上の手続きを経ていない治療。医療機関が金額を決め、患者が全額を負担する
承認されても、保険が使えるとは限りません。承認と保険収載は別の手続きで、時期もずれます。ニュースで「承認されました」と聞いても、その日から保険で受けられるわけではない、ということです。
なぜ多くの再生医療は自由診療なのか
公的医療保険は、有効性と安全性が確認され、国が保険で使うと決めた治療にだけ適用される仕組みです。PRP療法や幹細胞治療の多くは、この手続きを経ていません。
順天堂大学医学部附属順天堂医院も、PRP療法について「PRP療法は、日本ではまだ保険診療として認められていません。そのため、治療を受ける方は自由診療となります」と明記しています。
出典:多血小板血漿(PRP)による治療について|順天堂大学医学部附属順天堂医院
国に認められていない怪しい治療だから保険が効かない、という意味ではありません。保険収載という手続きを経ていない、ということです。PRP療法や幹細胞治療は、再生医療等安全性確保法にもとづく届出をしたうえで提供されています。PDF-FD療法は、ご自身の血液から抽出した成長因子を用いる自己血由来の治療で、細胞を用いないため同法の対象外です。
保険収載までに何が要るのか
保険で使えるようにするには、臨床試験でデータをそろえ、承認を得て、そのうえで保険収載の判断を受ける必要があります。この道のりは長く、10年単位になることも珍しくありません。
そして、その道を通ったものが実際に出てきています。次の2つがそれにあたります。
自家培養軟骨(ジャック)は、2段階で保険適用になった

自家培養軟骨は、自分の軟骨細胞を培養してつくったものを、手術で軟骨の欠けた部分に移植する治療です。広島大学の発表では「患者さんご自身の正常な膝軟骨細胞を採取し、約4週間培養したゲル状の培養軟骨で、欠損部位に移植し再生を促します」と説明されています。
この治療は、2段階で保険の対象が広がりました。
- 2013年(平成25年)4月 … 外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎で保険適用
- 2026年1月 … 変形性膝関節症にも保険適用
出典:学長開発の自家培養軟骨移植治療が「変形性膝関節症」にも保険適用|広島大学
2回目が大きな変化です。1回目の対象はスポーツや事故による外傷で、患者数は限られていました。変形性膝関節症は患者数がはるかに多い病気です。保険で受けられる再生医療の対象が、外傷から加齢による変形へ広がった、ということです。
ただし、誰でも受けられるわけではない
保険適用になったからといって、変形性膝関節症の方すべてが対象になるわけではありません。広島大学は対象を「運動療法や薬物療法で改善が見られず、一定以上の軟骨欠損のある患者さん」としています。
そして、これは注射ではなく手術です。軟骨細胞を採取する手術と、培養したものを移植する手術の2回が必要で、入院を伴います。PRPのように外来で受けられる治療とは、体への負担がまったく違います。
保険が使えるかどうかだけで選ぶと、ここを見落とします。負担の大きさと、自分の膝の段階に合っているかを先に見てください。
半月板損傷の再生医療は、いつから保険で受けられるのか
「半月板の再生医療は保険適用いつから」は、よく調べられている質問です。ここは動いている最中なので、時点を明確にして書きます。
2026年5月、半月板損傷を対象とする再生医療等製品「セイビスカス注」が、国内で初めて製造販売承認を取得しました。富士フイルム富山化学が2025年5月13日に承認申請を行い、承認に至ったものです。同社は「医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき製造販売承認を取得した再生医療等製品として国内初」としています。
出典:国内初の半月板損傷に対する再生医療等製品「セイビスカス®注」の製造販売承認を取得|富士フイルム
開発したのは東京科学大学の関矢一郎教授らのグループです。患者自身の膝関節内の滑膜から細胞を採取して培養し、関節鏡を使って半月板の損傷部に移植します。同大学は臨床試験の結果について「膝機能評価が大幅に改善」「改善効果は投与後2年間にわたり維持」「MRI評価で約7割の症例に修復改善を確認」「重篤な有害事象は認められず」と発表しています。
出典:東京科学大学発の半月板再生医療技術が実用化へ|東京科学大学
承認された。ただし保険で使えるかは、まだ別の話
ここが肝心です。承認は取得されましたが、それで保険が使えるようになったわけではありません。
2026年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)で、保険収載に向けて医療機器の区分で手続きを進めることが決まりました。本記事の作成時点(2026年10月8日)では、保険適用の開始は確認できていません。
出典:再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて(中医協 総-5-1、令和8年8月5日)|厚生労働省
先に書いたとおり、承認と保険収載は別の手続きです。「承認された」というニュースを見て保険で受けられると受け取ると、受診したときに話が食い違います。保険で受けられる時期については、受診先の医療機関か、最新の公表情報でご確認ください。
この製品の対象は「半月板切除術が適応となる半月板損傷」です。半月板が傷んでいれば誰でも、というものではありません。
なぜこの治療が必要とされたのか
背景も書いておきます。日本医療研究開発機構(AMED)は、この技術の治験開始時に「日本では半月板手術の80%が切除術であり、変形性膝関節症の高リスク群となっています」と説明しています。
出典:「自家滑膜幹細胞の半月板損傷を対象とする医師主導治験」開始のお知らせ|日本医療研究開発機構
半月板を切ると、膝のクッション機能が落ちます。東京科学大学も「半月板のクッション機能が低下するため、長期的には変形性膝関節症の進行リスクが高まる」としています。切らずに治す方法が求められてきた、という流れです。
医師主導治験が始まったのは2017年(平成29年)8月です。そこから承認まで9年近くかかっています。保険収載までの道のりが長いというのは、こういうことです。
高額療養費制度は、自由診療には使えない
「高額な医療費には上限があるはず」と考える方は多いのですが、ここは注意が必要です。
高額療養費制度は、公的医療保険が適用される医療費の自己負担を対象とする制度です。自由診療の費用は、そもそも対象になりません。
順天堂医院も、PRP療法について「PRP療法は再生医療のひとつですが、先進医療や高額医療の補助の対象とはなりません」と明記しています。
出典:多血小板血漿(PRP)による治療について|順天堂大学医学部附属順天堂医院
令和8年8月から、制度自体は見直された
なお高額療養費制度は、令和8年8月から見直されています。厚生労働省は「令和8年8月からは、低所得者の負担に配慮しつつ、一人当たり医療費の伸びに応じて月額負担上限額を見直す」としています。
あわせて「年間上限」が新設されました。厚生労働省の説明では、年間とは「8月から翌年7月まで」を指し、「月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間の上限額に達した後は、それ以上の医療費については、保険者から還付を受けることができます」とされています。令和9年8月からは、所得区分の細分化も行われる予定です。
ただし、この見直しで変わったのは保険診療の話です。自由診療が対象外である点は変わりません。保険適用になった自家培養軟骨は保険診療なので、こちらは高額療養費の対象になります。
自己負担限度額の具体的な金額は所得区分によって異なります。ご自身の区分での金額は、加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)にご確認ください。
PDF-FD療法は自由診療です
PDF-FD療法は、ご自身の血液から抽出した成長因子を用いる自己血由来の治療で、自由診療です。細胞を用いないため、再生医療等安全性確保法の対象ではなく、提供計画の届出や第一種〜第三種の区分はありません。薬機法上の「再生医療等製品」にも当たりません。公的医療保険は使えません。
PDF-FD療法の治療費の目安は、150,000円〜450,000円(税込)です。治療回数や内容、医療機関によって金額が異なります。診察料・採血料・血液検査料が含まれるか、2回目の診察料や注入手技料が別にかかるかも医療機関ごとに違います。受診先で確認してください。
PDF-FD療法では、注射部位に赤み、痛み、腫れ、かゆみなどが生じる場合があります。
PDF-FD療法では、感染症検査(HIV、B型肝炎、C型肝炎、梅毒)の結果によっては治療を受けられない場合があります。また、患部の状態によっては適さないこともあります。最終的な適応は担当医師が判断します。
治療内容や医療機関についてのご相談は、お問い合わせページで承っています。
保険適用を待つべきか、いま受けるべきか
ここは判断が分かれるところなので、材料だけ並べます。
待つ側の材料。保険が使えれば負担は大きく下がります。そして境目は実際に動いています。自家培養軟骨は2026年1月に対象が広がり、半月板の再生医療等製品は2026年5月に承認されました。
待たない側の材料。保険収載までの時間は読めません。半月板の例では、治験開始から承認まで9年近くかかりました。そしてその間も症状は進行します。再生医療は、関節の変形が進んだ段階では期待できる変化が小さくなるとされています。待っているうちに、検討していた治療の対象となる条件(適応)から外れることがあります。
つまり、「保険が使えるようになるまで待つ」は、膝の段階によっては選べない選択肢です。いま自分の膝がどの段階にあるかを画像で確認したうえで、待てるのかどうかを医師と相談してください。
よくある質問
Q. 膝の再生医療で保険が使えるのはどれですか。
A. 自家培養軟骨(ジャック)です。2013年4月に外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎で、2026年1月から変形性膝関節症でも保険適用になりました。PRP療法、PFC-FD療法、APS療法、幹細胞治療は自由診療です。自己血由来の治療であるPDF-FD療法も自由診療です。
Q. 半月板の再生医療は保険適用になりましたか。
A. 2026年5月に、半月板損傷を対象とする再生医療等製品「セイビスカス注」が国内で初めて製造販売承認を取得しました。2026年8月には、保険収載に向けて手続きを進めることが中医協で決まっています。ただし本記事の作成時点(2026年10月8日)では、保険適用の開始を確認できていません。受診先の医療機関か最新の公表情報でご確認ください。
Q. 高額療養費制度は使えますか。
A. 自由診療の費用は対象外です。高額療養費制度は、公的医療保険が適用される医療費の自己負担を対象とする制度だからです。保険適用になった自家培養軟骨は保険診療なので、こちらは対象になります。
Q. PRP療法はいつ保険適用になりますか。
A. 時期は公表されていません。保険収載までには臨床試験でのデータの蓄積、承認、保険収載の判断という段階が必要で、年単位の時間がかかります。半月板の再生医療等製品の例では、治験開始から承認まで9年近くかかりました。
保険で決めず、膝の段階で決める
膝の再生医療で保険が使えるのは、いまのところ自家培養軟骨だけです。ほかは自由診療で、高額療養費制度も使えません。
ただし境目は動いています。2026年1月に自家培養軟骨の対象が変形性膝関節症へ広がり、2026年5月には半月板損傷を対象とする再生医療等製品が国内で初めて承認されました。承認と保険適用は別の手続きなので、ニュースを見たら「保険で受けられるようになったのか」まで確かめてください。
そのうえでお伝えしたいのは、保険が使えるかどうかだけで治療を選ぶと、判断を誤りやすいということです。保険が使える自家培養軟骨は手術と入院を伴い、対象も限られています。逆に、待っているあいだに膝の段階が進んで適応から外れることもあります。
まず自分の膝がどの段階かを画像で確認する。その段階で候補になる治療を挙げてもらう。保険の話は、そのあとです。