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膝の再生医療とは|治療の種類・費用の目安・受けられる人を整理

膝の再生医療は、自分の血液や細胞を材料にして、膝の痛みをやわらげることを目指す治療の総称です。血液を使うものと細胞を使うものがあり、通院の回数も費用の水準も、法律上の扱いも治療ごとに違います。この記事では、どんな種類があり、誰が対象になり、受けるまでに何をするのかを一度に整理します。自分に向いているかどうかの最終的な判断には、画像検査を含む医師の診察が必要です。

膝の再生医療とは、自分の血液や細胞を材料にする治療の総称

自分の体から取り出した血液や細胞を加工して膝に戻し、関節の中で起きている炎症をおさえることを目指す。こうした治療をまとめて膝の再生医療と呼びます。材料と加工の仕方によっていくつもの種類があり、ひとつの決まった治療法を指す言葉ではありません。

「再生」でも、軟骨が元の厚みに戻るという意味ではない

ここで誤解が起きやすいところがあります。「再生」という言葉から、すり減った軟骨が元の厚みに戻る治療だと受け取られることがあります。ただし、膝の再生医療として提供されている治療の多くは、そこを目標にしていません。狙いは痛みと炎症であって、軟骨の形そのものではありません。

この点は、治療にあたっている大学もはっきり書いています。順天堂大学医学部スポーツ医学・再生医療講座は、PRPについて「再生医療法のもとで施行しますが、近年の研究結果から、再生よりも組織修復と抗炎症・除痛効果により患者さんの症状を改善すると考えられています」と説明しています。名前は「再生」ですが、実際に期待されているのは炎症と痛みへの働きだ、ということです。

出典:ホーム|順天堂大学医学部 スポーツ医学・再生医療講座

ここを取り違えたまま受けると、痛みが軽くなっても「軟骨が戻っていない」と感じて、効かなかったと受け取ることになります。何を目指す治療なのかを、先にそろえておく必要があります。

細胞を含む材料を使う治療は、法律にもとづく届出が要る

PRPや幹細胞治療のように、細胞を含む材料を使う治療は、再生医療等安全性確保法にもとづいて提供されます。厚生労働省の説明では、平成26年11月にこの法律が施行され、「再生医療等の提供に関する手続きや、細胞培養加工の外部委託に関するルールなどが定められています」。令和7年5月31日には改正法が施行され、細胞加工物を用いない遺伝子治療などが新たに法の対象に加わりました。

出典:再生・細胞医療・遺伝子治療について|厚生労働省

治療はリスクの大きさに応じて三つに区分されます。厚生労働省の資料では第一種・第二種・第三種の技術に分けられ、第一種は特定認定再生医療等委員会の審査を経て厚生労働大臣へ、第二種と第三種は認定再生医療等委員会の意見を聴いたうえで地方厚生局長へ、それぞれ提供計画を提出することになっています。そして「提供計画を提出せずに再生医療等の提供を行った場合は法に基づく罰則が適用されます」とされています。

出典:再生医療等提供計画の提出等について(概要)|厚生労働省

医療機関の費用の内訳に「第二種再生医療実施料」といった項目が出てくるのは、この区分にもとづくものです。裏を返せば、PRPや幹細胞治療については、届出をしている医療機関かどうかを制度として確認できます。受診先を選ぶときの手がかりになります。

種類は「血液を材料にするもの」と「細胞を材料にするもの」に分かれる

膝の再生医療として紹介されている治療は、名前で覚えようとすると混乱します。似た略語が並ぶうえ、医療機関ごとに独自の呼び方がつくこともあるためです。何を材料にするかで整理すると、通院の回数も費用の水準も見当がつきます。

  • PRP(多血小板血漿): 自分の血液から血小板の多い成分を取り出し、その日のうちに膝へ注射する
  • 血液を加工した製剤: 血液から取り出した成分をさらに加工して製剤にしたもの。PDF-FD(血液から抽出した成長因子を用いる)もこの系統にあたる
  • 幹細胞治療: おなかの脂肪や膝の滑膜から採った細胞を培養し、膝へ注射する
  • 自家培養軟骨: 自分の軟骨細胞を培養してつくったものを、手術で軟骨の欠けた部分に移植する

血液を材料にするもの

PRPは、採血した血液を遠心分離して血小板の多い部分だけを取り出し、膝に注射する治療です。順天堂医院の説明では「自分の血液を約20㏄とり、特殊な技術を用いて血液中の血小板が多く含まれる部分のみを抽出し、自己PRPを作成」するとされています。

出典:多血小板血漿(PRP)による治療について|順天堂大学医学部附属順天堂医院

PDF-FDは、同じく自分の血液を材料としながら、血液から抽出した成長因子を用いる製剤を使います。採血した日に注射するのではなく、製剤ができあがるまでの加工の期間をはさむ点がPRPと違います。

採血と注射は別の日になります。1回の採血で2回分をつくり、2回に分けて注射する進め方も取れます。そのぶん、採血から治療開始までに待ち時間が生まれます。通院の組み立て方が変わる、という違いです。

PDF-FD療法は、再生医療等安全性確保法の対象ではありません。ご自身の血液から抽出した成長因子を用いる自由診療で、細胞を用いないため、提供計画の届出や第一種〜第三種の区分はありません。薬機法上の「再生医療等製品」にも当たりません。同じ「膝の再生医療」の文脈で語られる治療でも、法律上の扱いは治療ごとに違います。

細胞を材料にするもの

幹細胞を用いる治療は、脂肪や滑膜から細胞を採取し、培養してから膝に注射します。血液を材料にするものと比べると、採取の処置が必要で、培養にも設備と期間がかかります。費用が高くなりやすいのはこのためで、大学病院の公表例でも100万円を超えるものがあります。

出典:変形性膝関節症に対する最新治療のご案内|獨協医科大学埼玉医療センター 整形外科

幹細胞治療の注意点は幹細胞治療のデメリットで扱っています。

自家培養軟骨は、この中で性格が異なります。自分の軟骨細胞を培養してつくったものを、手術で移植する治療です。広島大学病院の発表では「患者さんご自身の正常な膝軟骨細胞を採取し、約4週間培養したゲル状の培養軟骨で、欠損部位に移植し再生を促します」と説明されています。対象は「運動療法や薬物療法で改善が見られず、一定以上の軟骨欠損のある患者さん」です。

そして、この治療は2026年1月に変形性膝関節症へ保険適用されました。再生医療がすべて自由診療というわけではありません。保険が使えるものと使えないものが混在しているのが、いまの状況です。

出典:学長開発の自家培養軟骨移植治療が「変形性膝関節症」にも保険適用|広島大学

治療法の比較

膝の再生医療を材料で分類した図。血液を材料にするものと細胞を材料にするものの2系統
▲ 何を材料にするかで分けると、通院の回数も費用の水準もおおよそ見当がつきます。
治療の種類 材料 加工 通院の目安 費用の目安 公的医療保険
PRP(多血小板血漿) 自分の血液 採血した日に分離する 3〜4週間ごとに3回を1クール(順天堂医院の例) 1回あたり数万円台(大学病院の公表例) 適用外
PDF-FD 自分の血液 血液から成長因子を抽出して製剤にする(完成まで約2〜3週間) 採血から完成まで約2〜3週間。1回の採血で2回分を作製(医療機関により異なる) 15万〜45万円(税込)が目安。医療機関により異なる 適用外
PFC-FD 自分の血液 加工して保存できる形にする 医療機関により異なる 医療機関により異なる 適用外
幹細胞(脂肪・滑膜など) 自分の脂肪または滑膜 取り出した細胞を培養する 医療機関により異なる 100万円を超える例がある(大学病院の公表例) 適用外
自家培養軟骨 自分の軟骨細胞 約4週間培養する 軟骨細胞の採取と移植の手術が必要 保険診療としての自己負担 2026年1月から変形性膝関節症に適用
膝の再生医療の主な種類(公表されている情報にもとづく)。金額は水準を示すためのもので、実際の金額は受診する医療機関にご確認ください

この表は全体像をつかむためのものです。実際にどれを選ぶかは、膝の状態と通院できる頻度をふまえて、医師と相談して決めることになります。

表に挙げたPFC-FDは、セルソース株式会社の登録商標で、PDF-FDとは別の製剤です。

保存療法と手術のあいだにある選択肢

膝の治療は、大きく保存療法と手術に分かれます。日本整形外科学会の説明では、保存療法として「痛み止めの内服薬や外用薬を使ったり、膝関節内にヒアルロン酸の注射などをします」、手術療法として「関節鏡(内視鏡)手術、高位脛骨骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがあります」とされています。

出典:変形性膝関節症|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる

再生医療は、この二つのあいだに位置します。保存療法では足りないが、手術には踏み切れない。その段階の選択肢です。

実際に多いのは、ヒアルロン酸注射を続けてきた方です。打った直後は楽になるが、効いている期間がだんだん短くなってきた。かといって人工関節の手術には抵抗がある。この「あいだ」に何があるかを調べていて、再生医療にたどり着く。ヒアルロン酸注射の回数や保険の扱いについては、別記事で整理しています。

保存療法・再生医療・手術の3段階。右に行くほど負担が大きく、元に戻しにくい
▲ 膝の治療の3段階。再生医療は「保存療法では足りないが、手術には踏み切れない」段階の選択肢にあたります。
段階 主な内容 目的 体への負担 元に戻せるか
保存療法 内服薬・外用薬、ヒアルロン酸注射、運動療法 痛みをおさえる、進行を遅らせる 小さい いつでも中止できる
再生医療 自分の血液や細胞を材料にした注射(自家培養軟骨は手術) 炎症をおさえて痛みをやわらげる 注射が中心。採血や脂肪の採取を伴う 受けた分は元に戻せない
手術 関節鏡手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術 傷んだ関節そのものを処置・置き換える 大きい。入院とリハビリが必要 元には戻せない
保存療法・再生医療・手術の位置づけ

「手術を避けられる」とは言えない

注意したいのは、再生医療を受ければ手術を避けられる、という言い方はできないことです。効果の出方には個人差があり、受けたあとに手術を選ぶ人もいます。この点について、順天堂東京江東高齢者医療センターは「残念ながら効果がなかった方でも、その後手術(高位脛骨骨切り術や人工膝関節全置換術)治療を受ける事は可能です」と説明しています。手術という選択肢がなくなるわけではない、という意味です。

出典:PRP療法による再生医療のご案内|順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター

人工膝関節の手術を勧められている段階の方は、年齢と手術のタイミングの関係を整理した記事もあわせてご覧ください。

受けられる人と、対象になりにくい人

受けられる条件より、受けられない条件を先に見たほうが早く判断できます。

効果が下がるとされている条件

公表されているものから挙げると、順天堂医院はPRP療法について「膝の変形が重症な方(関節の隙間が無くなっている方)や、肥満の方ではPRP療法の効果が低下します」としています。関節の隙間がなくなっている段階と、体重は、効果の見込みを左右します。体重については、治療を受けるかどうかとは別に、減らせるかどうかを先に医師と相談する価値があります。

出典:多血小板血漿(PRP)による治療について|順天堂大学医学部附属順天堂医院

PDF-FD療法では、感染症検査(HIV、B型肝炎、C型肝炎、梅毒)の結果によっては治療を受けられない場合があります。また、患部の状態によっては適さないこともあります。最終的な適応は担当医師が判断します。

いずれにしても、対象になるかどうかは、画像検査と診察をふまえて医師が判断します。この記事を読んで自分で決められるものではありません。

診察で聞いておく五つのこと

ここから先は、診察で確かめることになります。現実的なのは、聞くことを決めてから行くことです。次の五つは、この治療を受けるかどうかを決めるための質問です。

  1. 自分の膝はレントゲンで見てどの段階か
  2. その段階でこの治療を受けた場合、何がどれくらい変わると考えられるか
  3. 効かなかったときに次に取れる手段は何か
  4. 総額でいくらかかるか
  5. いま受けずに様子を見た場合、半年後にどうなっている可能性が高いか

最後のひとつは聞き忘れやすいところです。受けるかどうかを決めるには、受けなかった場合の見通しも要ります。

費用と保険は、どう考えればよいか

自家培養軟骨のような一部の例外を除き、膝の再生医療は自由診療です。PDF-FD療法も自由診療で、公的医療保険は使えません。費用は全額自己負担になります。

保険が効かないのは、公的医療保険が、有効性と安全性が確認され、国が保険で使うと決めた治療にだけ適用される仕組みだからです。国に認められていない怪しい治療だから効かない、という意味ではありません。保険収載という手続きを経ていない、ということです。

PDF-FD療法の治療費の目安は、150,000円〜450,000円(税込)です。治療回数や内容、医療機関によって金額が異なります。

金額は医療機関ごとに違います。見るときは1回あたりではなく、必要な回数をすべて受けたときの総額で見てください。診察料・採血料・血液検査料が治療費に含まれるか、追加の費用がかかるかも医療機関ごとに違います。受診先で確認してください。

デメリットとリスク

自由診療で高額であること自体が、この治療の最も大きなデメリットです。そのうえで、治療そのものに伴うものを挙げます。

PRPなどの注射で共通して起こりうるのは、注射した部位の痛みや腫れが一時的に強くなること、内出血、そして頻度は低いものの感染です。材料を採るために採血や脂肪の採取が必要になる点も、体への負担として数えられます。

PDF-FD療法では、注射部位に赤み、痛み、腫れ、かゆみなどが生じる場合があります。

効果の面では三つあります。効き方に個人差があること。即効性がなく、判断までに数か月かかること。そして、長期にどうなるかを示すデータがまだ限られていることです。三つ目は、この治療がまだ保険収載に至っていない理由とも重なります。

そしてもうひとつ、効果が出なかった場合でも、費用は原則として戻りません。何回まで試すかを、受ける前に自分の中で決めておいてください。

効果が出るまでにどれくらいかかるか

打ってすぐ効く治療ではありません。PRPを例にとると、大学病院は複数回を1クールとしたうえで、効いたかどうかの評価は治療開始から半年後に行うと説明しています。判断までに半年ほどかかるという前提で検討することになります。

1回受けて翌週に判断する、という進め方ではないので、仕事や介護の予定はこの時間軸で組んでおいてください。

受けるまでの流れ

治療までの流れは、おおまかに次の順です。

  1. 診察と画像検査(レントゲン・MRIなど)で、膝の状態と対象になるかを確認する
  2. 治療の内容、費用の総額、リスクの説明を受ける
  3. 血液検査を受ける(感染症の確認を含む)
  4. 材料を採取する(採血、または脂肪の採取)
  5. 加工する(当日に済むものと、数週間かかるものがある)
  6. 膝に注射する
  7. 経過を見る
膝の再生医療を受けるまでの流れ。診察・説明・血液検査・採取・加工・注射・経過観察の7段階
▲ 受けるまでの流れ。加工にかかる期間は治療によって大きく違います。

PDF-FD療法では、採血から製剤ができあがるまで通常約2〜3週間かかります。標準的には1回の採血で2回分を作製し、全量を一度に注射するか、1回目の注射から約2週間〜1か月後に2回目を注射します。実際の通院回数や間隔は、医療機関の治療方針によって異なります。

血液検査と、加工にかかる期間について

3の血液検査は、感染症の有無を確認するために行います。自分の血液や細胞を材料にする治療では、材料そのものの安全性を確認する必要があるためです。検査の結果によっては、治療を受けられないことがあります。

5の加工にかかる期間は、治療によって大きく違います。PRPのように採血した日に注射まで済むものもあれば、培養や加工に数週間かかるものもあります。仕事の都合で通院日が限られる方は、ここを最初に確認しておくと予定が立てやすくなります。

どこで受けられるか

「名医」で探したくなるところですが、公開されている情報から医師の腕を比べるのは現実的ではありません。代わりに確認できることがあります。PRPや幹細胞治療を受ける場合は、再生医療等安全性確保法にもとづく提供計画を届け出ている医療機関かどうかです。提供計画の提出は法律上の義務で、提出せずに提供すれば罰則の対象になります。PDF-FD療法はこの法律の対象外のため、届出の有無ではなく、治療の内容・費用の総額・リスクについて事前に説明があるかを確かめてください。

治療内容や医療機関についてのご相談は、お問い合わせページで承っています。

よくある質問

Q. 何回くらい通いますか。

A. 治療の種類によって違います。採血した日に注射まで済むものもあれば、加工に数週間かかり、採血と注射で来院日が分かれるものもあります。通院できる頻度に制約がある方は、最初の診察で回数と間隔を確認してください。

Q. 保険は使えますか。

A. 多くの再生医療は自由診療で、公的医療保険は使えません。ただし自家培養軟骨のように、保険適用になった治療もあります。

Q. 誰でも受けられますか。

A. 受けられない場合があります。関節の状態、感染の有無、血液の状態などによって判断されます。対象になるかどうかは、画像検査と血液検査を受けたうえでの医師の判断になります。

Q. 受けたあとに手術はできますか。

A. できます。順天堂東京江東高齢者医療センターは、前掲のPRP療法のページで「残念ながら効果がなかった方でも、その後手術(高位脛骨骨切り術や人工膝関節全置換術)治療を受ける事は可能です」と説明しています。ただし、そのぶん時間は経過します。年齢や膝の状態によっては、手術の時期を先に相談したほうがよい場合もあります。

Q. どこで受けられますか。

A. PRPや幹細胞治療は、再生医療等安全性確保法にもとづく提供計画を届け出た医療機関で提供されます。PDF-FD療法はこの法律の対象外です。受けられる医療機関については、お問い合わせページからご相談ください。

決める順番を先に決めておく

膝の再生医療は、種類によって材料も通院回数も違い、保険が使えるものと使えないものが混在しています。保険の範囲は近年も動いており、いま調べた条件がそのまま続くとは限りません。

判断の順番は決まっています。まず自分の膝がどの段階にあるかを画像検査で確認する。次に、その段階で候補になる治療を医師に挙げてもらう。そのうえで、総額と、効かなかったときにどうするかまで聞いてから決める。この順で進めれば、金額の大きさに引っ張られずに済みます。

この記事は、その相談の前に持っておく前提をそろえるためのものです。

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